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オークション

『オークションの世界 VOL.6 』怖い、シーソーゲーム。意識が「いくらで買う」から「勝負に勝つ」に傾くと、後悔することも

Written by HARADA Nobuyuki

オークションは相場では決まらない。そんなところも魅力だ。最低落札価格30万円の宝石が、360万円に!

 


片手に受話器を持った10人以上のスタッフが一 斉にパドルを上げて注目のロットの競りが始まっ た。始まる前からざわついている会場にも買う気満々のバイヤーが揃っている。ロットは12カラットのマダガスカル産無処理(加熱の痕跡無し)のリングだ。親指の爪ほどのやや丸いオーバルのサファイアからは美しい濃淡モザイク模様が湧き出ている。透明度が高く程よい明るさのブルーは優しさも兼ね備えたジェムクオリティだ。 30万円という格安のリザーブ価格(最低落札価格)は多くのバイヤーの食欲を刺激するには十分だ。

オークショニア(オークションを取り仕切る人) がリザーブ価格の30万円からスタートしようとし たとき、会場の中の海外のバイヤーから一気に250万円の声が上がった。気の短いバイヤーが時間短縮と格安で買おうとしていたバイヤーを振り払うための心理戦でもある。これでバイヤーは 一気に3分の1ぐらいの数に落ち着いた。このように人気のあるロットはこれからが結構長い。案の定、会場にいるバイヤーと電話で参戦しているバイヤーのバトルが始まる。260万円、270万円、280万円と会場と電話の争いが続く。ここで会場に残っていた最後のバイヤーが降りた。決戦は残った電話の2人に絞られた。こうなるとオークショニアは丁寧に時間をかける。一声10万円ずつ競り上げるが、簡単にはハンマーは打たない。

290万円、300万円と上がっていく。電話の 1人は予算に余裕があるのか、競争相手がビットするとすぐに応戦する。もう1人は1回ごとに検討する時間が長くなる。始まってから3分以上が経過している。通常オークションでは、そこそこ競 るロットでも1分以内なので長期戦だ。さらに310万円、320万円、330万円と一声ごとにオークショニアが防戦しているほうに「まだ競りますか?」と声をかけ、検討する時間がさらに長くなる。絞り出すように、340万、350万とパドルを上げるが、もう1人がすぐに360万円と追っ てきたところで遂に力尽きた。30万円のリザーブ価格のロットは最終的に360万円で落札された。

この日のオークションは普段と違う空気が流れていた。平成から令和に変わる異例の連休の初日に行われたために、いつもは会場に来ていた日本在住の外国人バイヤーも長い休みを故郷で過ごし自国から電話で参加していた。いつにも増して電話同士の争いが目立ったのはこのためだ。 電話の場合、オークション会社のスタッフが現在の価格をバイヤーに伝えるが、現場の状況は想像するしかない。電話での参加は会場より冷めた目で見ることができる人も多いが、相手が見えないことでより熱くなる人が少なからずいる。そのような人が最後に2人残ると大変だ。「いくらで買う」より「勝負に勝つ」に変わってシーソーゲームの様相になる。シーソーゲームの結末が時計のように同じモデルの現行価格より高くなると残るのは後悔しかないが、一つ一つが異なる宝石では買い手によって適正価格もまちまちで、最終的な勝ち負けが曖昧なので救われる。間違いなく誰よりも高く出した結果が落札だが、競争相手の多寡や強弱は時の運でもある。相場だけで決まらないのがオークションの怖さでもあり、魅力でもある。

最後にこれを読んでオークションに恐れを抱いた皆さんに本田宗一郎さんの言葉「チャレンジして失敗を恐れるよりも何もしないことを恐れろ」を贈りたい。


原田信之(Harada Nobuyuki)
株式会社ジュエリーアドバイザーアンドギャラリー 取締役社長
30年間で百数十回に及ぶ宝石の海外買い付けとジュエリーのプロデューサーの経験を生かして、相続、オークションの査定や資産性のアドバイスを行っている。

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手数料のチェックや事前のリサーチ。本気でいい宝石を落札したい人は必見!


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